じゅうさんや |
十三夜 |
冒頭文
上 例(いつも)は威勢よき黒ぬり車の、それ門に音が止まつた娘ではないかと兩親(ふたおや)に出迎はれつる物を、今宵は辻より飛のりの車さへ歸して悄然(しよんぼり)と格子戸の外に立てば、家内(うち)には父親が相かはらずの高聲、いはゞ私(わし)も福人の一人、いづれも柔順(おとな)しい子供を持つて育てるに手は懸らず人には褒められる、分外の慾さへ渇かねば此上に望みもなし、やれ〳〵有難い事と物がたられ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「文藝倶樂部 閨秀小説號」博文館、1895(明治28)年12月10日
底本
- 日本現代文學全集 10 樋口一葉集
- 講談社
- 1962(昭和37)年11月19日