いなかふうなヒューモレスク
田舎風なヒューモレスク

冒頭文

都会の者だって夫婦げんかはする。けれども、田舎の夫婦げんかには、独得の牧歌的滑けいがつきものです。いつか村で有名な夫婦げんかが一つあった。 勇吉という男がある。もう五十八九の年配だ。体の大きいひょうかんな働きてで、どんどん身代をこしらえた。若い時、村の池で溺れかかった中学生を救った時右の人さし指をくい切られて、その指は真中の節からない。よく酒を飲む。女房は、おしまという。亭主に負けない黒

文字遣い

新字新仮名

初出

「写真報知」1925(大正14)年7月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日