しんりょく
新緑

冒頭文

この頃の新緑の美しさ。私は、毎朝目を醒ますと、先ず庭を観るのが一つの悦びだ。空がよく晴れて、日光がキラキラする梢の鮮かな姿を見るのもたのしいし、又は、今朝のような雨に煙とけ、一層陰翳ふかい緑にしたたる様子を眺めるのも快い。近頃の自然こそ、人間が眠っている暗い夜の間にも巻葉の解かれるサッサッと云う微な戦ぎで天地を充たすようだ。 雨はやんだらしいが、雲は晴れないと見え、硝子窓の外は真暗闇だ。

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1924(大正13)年5月11日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日