ちずにないまち
地図にない街

冒頭文

私にこの物語をして聞かせた寺内(てらうち)とかいう人は、きくところによると、昨年の十一月末、ちょうど私がこれを聞いて帰ったその日の夜七時頃、もう病気をつのらせて、自ら部屋の柱に頭を打ちつけて死んだのだそうである。 七時といえば私を送り出してから、まだ三時間とたっていない出来事である。世間話のうちにふとこれを伝えてくれた私の知人は、その時いつにない私の驚きに対して、無論寺内氏の死は自殺であ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1930(昭和5)年4月号

底本

  • 怪奇探偵小説集1
  • ハルキ文庫、角川春樹事務所
  • 1998(平成10)年5月18日