えんじゅ

冒頭文

槐(ゑんじゆ)と云ふ樹の名前を覚えたのは「石の枕」と云ふ一中節(いつちうぶし)の浄瑠璃(じやうるり)を聞いた時だつたであらう。僕は勿論一中節などを稽古するほど通人(つうじん)ではない。唯親父(おやぢ)だのお袋だのの稽古してゐるのを聞き覚えたのである。その文句(もんく)は何(なん)でも観世音菩薩(くわんぜおんぼさつ)の「庭に年(とし)経(へ)し槐(ゑんじゆ)の梢(こずゑ)」に現れるとか何(なん)とか

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1971(昭和46)年6月5日