僕が大学を卒業した年の夏、久米正雄(くめまさを)と一緒(いつしよ)に上総(かづさ)の一(いち)ノ宮(みや)の海岸に遊びに行つた。それは遊びに行つたといつても、本を読んだり、原稿を書いたりしてゐたには違ひないが、まあ一日の大部分は海にはひつたり、散歩したりして暮してゐた。 或暮方(くれがた)、僕等は一(いち)ノ宮(みや)の町へ散歩に行き、もう人の顔も見えない頃、ぶらぶら宿の方へ帰つて来た。道は宿