わが裏庭の垣のほとりに一株の臘梅(らふばい)あり。ことしも亦(また)筑波(つくば)おろしの寒きに琥珀(こはく)に似たる数朶(すうだ)の花をつづりぬ。こは本所(ほんじよ)なるわが家(や)にありしを田端(たばた)に移し植ゑつるなり。嘉永(かえい)それの年に鐫(ゑ)られたる本所絵図(ほんじよゑず)をひらきたまはば、土屋佐渡守(つちやさどのかみ)の屋敷の前に小さく「芥川(あくたがは)」と記せるのを見たまふ