或冬曇りの午後、わたしは中央線(ちうあうせん)の汽車の窓に一列の山脈を眺めてゐた。山脈は勿論(もちろん)まつ白だつた。が、それは雪と言ふよりも山脈の皮膚に近い色をしてゐた。わたしはかう言ふ山脈を見ながら、ふと或小事件を思ひ出した。—— もう四五年以前になつた、やはり或冬曇りの午後、わたしは或友だちのアトリエに、——見すぼらしい鋳(い)もののストオヴの前に彼やそのモデルと話してゐた。アトリエには