童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎(うさぎ)とは、舌切雀(したきりすずめ)のかすかな羽音を聞きながら、しづかに老人の妻の死をなげいてゐる。とほくに懶(ものう)い響を立ててゐるのは、鬼ヶ島へ通(かよ)ふ夢の海の、永久にくづれる事のない波であらう。 老人の妻の屍骸(しがい)を埋めた土の上には、花のない桜の木が、ほそい青銅の枝を、細(こまか)く空にのばしてゐる。その木の上の空には、