わすれられぬいんしょう
忘れられぬ印象

冒頭文

伊香保(いかほ)の事を書けと云ふ命令である。が、遺憾(ゐかん)ながら伊香保へは、高等学校時代に友だちと二人(ふたり)で、赤城山(あかぎさん)と妙義山(めうぎさん)へ登つた序(ついで)に、ちよいと一晩泊つた事があるだけなんだから、麗々(れいれい)しく書いて御眼(おめ)にかける程の事は何もない。第一どんな町で、どんな湯があつたか、それさへもう忘れてしまつた。唯(ただ)、朧(おぼろ)げに覚えてゐるのは、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1971(昭和46)年6月5日