ほうろう
放浪

冒頭文

一 大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞(げんくそ)のわるい男や、云うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。 ——「まからんや」は月に二度、疵ものやしみつきや、それから何じゃかや一杯呉服物を一反風呂敷にいれ、南海電車に乗り、岸和田で降りて二里の道あるいて六貫村へ着物(べべ)売りに来ると、きまって現糞わるく雨が降って、雨男である。三年前にも来て降ら

文字遣い

新字新仮名

初出

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

底本

  • 定本織田作之助全集 第一巻
  • 文泉堂出版
  • 1976(昭和51)年4月25日