そのころのあかもんせいかつ
その頃の赤門生活

冒頭文

一 僕の二十六歳の時なりしと覚ゆ。大学院学生となりをりしが、当時東京に住(ぢゆう)せざりしため、退学届を出す期限に遅れ、期限後数日を経(へ)て事務所に退学届を出(いだ)したりしに、事務の人は規則を厳守して受けつけず「既に期限に遅れし故、三十円の金を収(をさ)めよ」といふ。大正五六年の三十円は大金なり。僕はこの大金を出し難き事情ありしが故に「然らばやむを得ず除名処分を受くべし」といへり。事務の

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1971(昭和46)年6月5日