ひさめ
氷雨

冒頭文

一 暗くなつて来た。十間許り下流で釣つてゐる男の子の姿も、夕暗に輪廓がぼやけて来た。女の子は堤の上で遊んでゐたが、さつき、 「お父さん、雨が降つて来たよ」 と、私に知らせに来た。 「どこかで雨を避けておいで」 と返事をしたまま、私は魚を釣り続けてゐたのだが、堤には小さな胡桃の木以外には生えてゐなかつた。それも秋も深んだ今では、すつかり葉を落してしまつて、裸で立つてゐる

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 筑摩現代文学大系 36 葉山嘉樹集
  • 筑摩書房
  • 1979(昭和54)年2月25日