ハルピンのいちや
ハルピンの一夜

冒頭文

頭の禿げた、うす穢いフロツク姿の老人の指揮者(コンダクタア)がひよいと立ち上つて指揮棒を振ると、何回目かの、相變らず下品な調子のフオツクス・トロツトが演奏團席(ジヤズ・バンド)の方で始まつた。落ちぶれ貴族の息子とでも云ひさうな若いロシヤ人、眼の動かし方に厭味のある、會社の書記風のイギリス人、髪の毛を妙に凝つた仕方に縮らせたアメリカ人の下士官、金儲けにぬけめのなささうな、商人らしい中年のフランス人、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若き入獄者の手記
  • 文興院
  • 1924(大正13)年3月5日