はまぎく
浜菊

冒頭文

汽車がとまる。瓦斯(ガス)燈に「かしはざき」と書いた仮名文字が読める。予は下車の用意を急ぐ。三四人の駅夫が駅の名を呼ぶでもなく、只歩いて通る。靴の音トツトツと只歩いて通る。乗客は各自に車扉を開いて降りる。 日和下駄カラカラと予の先きに三人の女客が歩き出した。男らしい客が四五人又後から出た。一寸(ちょっと)時計を見ると九時二十分になる。改札口を出るまでは躊躇(ちゅうちょ)せず急いで出たが、

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1908(明治41)年9月

底本

  • 野菊の墓
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年10月25日