わたしのこと
私の事

冒頭文

生活の外側は、元の通り至って平穏無事である。けれども内部は異って来た。 新らしい世界が開けて、自分に来たものは、所謂落付きでもなければ、理解でもない。一層の知り度さである。時々自分の心を顧て、今までの総ての過去が、その内容の貧弱でのみ思い出されるような事がある。真個(ほんと)に一人の人間が知り得る丈の事を知り、感じ得る丈の事を感じて、其処から力の及ぶ限り何物かを見出して行き度いものだと思

文字遣い

新字新仮名

初出

「時事新報」1920(大正9)年8月5日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日