わし

冒頭文

土佐の海岸にあった私の村には、もうその比(ころ)洋行するような人もあって、自由主義の文化はあったが未だ日清戦役前の半農半漁の海村のことであるから、村の人の多くの心を支配したものは原始的な迷信であった。 聖神(ひじりがみ)と云う無名の高僧を祭ったと云う社の森には、笑い婆と云う妖婆がいて人を見ると笑いかけたが、笑いかけられた者はその妖婆の笑えなくなるまで笑わないと病気になって死ぬのであった。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の怪談(二)
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1986(昭和61)年12月4日