一 あれあれ見たか、 あれ見たか。 二つ蜻蛉(とんぼ)が草の葉に、 かやつり草に宿をかり、 人目しのぶと思えども、 羽はうすものかくされぬ、 すきや明石(あかし)に緋(ひ)ぢりめん、 肌のしろさも浅ましや、 白い絹地の赤蜻蛉。 雪にもみじとあざむけど、 世間稲妻、目が光る。 あれあれ見たか、 あれ見たか。 「おじさん——その提灯(ちょうちん)……」