一「そんな事があるものですか。」「いや、まったくだから変なんです。馬鹿々々しい、何、詰(つま)らないと思う後(あと)から声がします。」「声がします。」「確かに聞えるんです。」 と云った。私たち二人は、その晩、長野の町の一大構(あるおおがまえ)の旅館の奥の、母屋(おもや)から板廊下を遠く隔てた離座敷(はなれざしき)らしい十畳の広間に泊った。 はじめ、停車場(ステイション)から俥(くるま)を二台で