うみのししゃ
海の使者

冒頭文

上 何心(なにごころ)なく、背戸(せど)の小橋(こばし)を、向こうの蘆(あし)へ渡りかけて、思わず足を留(と)めた。 不図(ふと)、鳥の鳴(なく)音(ね)がする。……いかにも優しい、しおらしい声で、きりきり、きりりりり。 その声が、直(す)ぐ耳近(みみぢか)に聞こえたが、つい目前(めさき)の樹(き)の枝や、茄子畑(なすばたけ)の垣根にした藤豆(ふじまめ)の葉蔭(はかげ)で

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1909(明治42)年7月

底本

  • 高野聖
  • 集英社文庫、集英社
  • 1992(平成4)年12月20日