ぎゅうなべ |
| 牛鍋 |
冒頭文
鍋(なべ)はぐつぐつ煮える。 牛肉の紅(くれない)は男のすばしこい箸(はし)で反(かえ)される。白くなった方が上になる。 斜に薄く切られた、ざくと云う名の葱(ねぎ)は、白い処が段々に黄いろくなって、褐色の汁の中へ沈む。 箸のすばしこい男は、三十前後であろう。晴着らしい印半纏(しるしばんてん)を着ている。傍(そば)に折鞄(おりかばん)が置いてある。 酒を飲んでは肉を反す。肉を反しては
文字遣い
新字新仮名
初出
「心の花」1910(明治43)年1月
底本
- 普請中 青年 森鴎外全集2
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1995(平成7)年7月24日