どくしん
独身

冒頭文

壱 小倉の冬は冬という程の事はない。西北の海から長門の一角を掠(かす)めて、寒い風が吹いて来て、蜜柑(みかん)の木の枯葉を庭の砂の上に吹き落して、からからと音をさせて、庭のあちこちへ吹き遣(や)って、暫(しばら)くおもちゃにしていて、とうとう縁の下に吹き込んでしまう。そういう日が暮れると、どこの家でも宵のうちから戸を締めてしまう。 外はいつか雪になる。おりおり足を刻んで駈けて通る伝

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 普請中 青年 森鴎外全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1995(平成7)年7月24日