めいこうしゅっせたん
名工出世譚

冒頭文

一 時は明治四年、処は日本の中央、出船入船賑やかな大阪は高津のほとりに、釜貞と云へば土地で唯一軒の鉄瓶の仕上師として知られた家であつた。主人は京都の浄雪の門から出た昔気質の職人肌、頑固の看板と人から笑はれてゐた丁髷(ちよんまげ)を切りもやらぬ心掛が自然その技(わざ)の上にあらはれて、豪放無類の作りが名を得て、関東関西の取引の元締たる久宝寺町の井筒屋、浪花橋の釘吉(くぎよし)、松喜(まつき)、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆39 藝
  • 作品社
  • 1986(昭和61)年1月25日