どくしょべん
読書弁

冒頭文

大凡一個の人間の慾には一定の分量ある者と思はる。例へば甲なる者の慾心は百斤あるものならば、常に此分量を限りとして百斤より増すこともなく又減ずることなし。併し慾には種類ありて食慾色慾等五官の慾を初めとして無形の名誉に至るまで千差万別あることなるが、其各種の慾心には消長盛衰あれども其総体の分量は固より百斤ならば百斤の外に出づることなし。各人の分量を比較して相同じきや、又多くは相異なる者なるや、未だ断定

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆36 読
  • 作品社
  • 1985(昭和60)年10月25日