しらくちのはな
しらくちの花

冒頭文

明治卅六年の秋のはじめに自分は三島から箱根の山越をしたことがある。箱根村に近づいて来た頃霧が自分の周囲を罩(こ)めた。霧は微細なる水球の状態をなして目前を流れる。冷かさが汗の肌にしみ〴〵と感じた。段々行くと皿程の大さの白いものが其霧の中に浮んで居るやうに見えた。それが非常に近く自分の傍にあるやうに思はれた。軈(やが)て霧はからりと晴れた。さうして自分を愕(おどろ)かした。青草の茂つた丘がすぐ鼻の先

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 花の名随筆10 十月の花
  • 作品社
  • 1999(平成11)年9月10日