ヒルミふじんのれいぞうかばん |
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 |
冒頭文
或る靄(もや)のふかい朝—— 僕はカメラを頸にかけて、幅のひろい高橋(たかばし)のたもとに立っていた。 朝靄のなかに、見上げるような高橋が、女の胸のようなゆるやかな曲線を描いて、眼界を区切っていた。組たてられた鉄橋のビームは、じっとりと水滴に濡れていた。橋を越えた彼方(かなた)には、同じ形をした倉庫の灰色の壁が無言のまま向きあっていたが、途中から靄のなかに融けこんで、いつものよ
文字遣い
新字新仮名
初出
「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月
底本
- 海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島
- 三一書房
- 1989(平成元)年4月15日