わかい
和解

冒頭文

一 奥の六畳に、私はM—子と火鉢の間に対坐してゐた。晩飯には少し間があるが、晩飯を済したのでは、夜の部の映画を見るのに時間が遅すぎる——ちやうどさう云つた時刻であつた。陽気が春めいて来てから、私は何となく出癖がついてゐた。日に一度くらゐ洋服を著て靴をはいて街へ出てみないと、何か憂鬱であつた。街へ出て見ても別に変つたことはなかつた。どこの町も人と円タクとネオンサインと、それから食糧品、雑貨、出

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」1933(昭和8)年6月

底本

  • 徳田秋声全集 第十七巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年1月18日