いしたかまふさいちし
医師高間房一氏

冒頭文

第一章 一 この物語の主人公である高間房一の生ひ育つた河原町は非常に風土的色彩の強い町であつた。海抜にしてたかだか千米位の山脈が蜿蜒としてつらなり入り乱れてゐる奥地から、一条の狭いしかし水量の豊富な渓流が曲り曲つたあげく突如として平地に出る。そこで河は始めて空を映して白く広い水面となり、ゆつたりと息づきながら流れるやうに見える。その辺は平地と云つても、直径にして一里足らずの小盆

文字遣い

新字旧仮名

初出

「医師高間房一氏」砂子屋書房、1941(昭和16)年4月

底本

  • 筑摩現代文学大系 60
  • 筑摩書房
  • 1978(昭和53)年4月15日