どくしょ
読書

冒頭文

私は或は人から沢山の書物を読むとでも思われているかも知れない。私はたしかに書物が好である。それは子供の時からの性僻であったように思う。極(ごく)小さい頃、淋しくて恐いのだが、独りで土蔵の二階に上って、昔祖父が読んだという四箱か五箱ばかりの漢文の書物を見るのが好であった。無論それが分ろうはずはない。ただ大きな厳しい字の書物を披いて見て、その中に何だかえらいことが書いてあるように思われたのであった。そ

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造 第二十巻第十一号」1938(昭和13)年11月

底本

  • 続思索と体験『続思索と体験』以後
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1980(昭和55)年10月16日