えいゆうのうつわ
英雄の器

冒頭文

「何しろ項羽(こうう)と云う男は、英雄の器(うつわ)じゃないですな。」 漢(かん)の大将呂馬通(りょばつう)は、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、疎(まばら)な髭(ひげ)を撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火(ともしび)の光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。その顔がまた、どれもいつになく微笑を浮べているのは、西楚(せいそ)の覇王(はおう

文字遣い

新字新仮名

初出

「人文」1918(大正7)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年10月28日