いしをなぐるもの
石を投ぐるもの

冒頭文

去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわらず、省線は猛烈にこんで全く身動きも出来ず、上の子をやっと腰かけさせてかばっていた間に、背中の赤ちゃんは、おそらくねんねこの中へ顔を埋められ圧しつけられたためだろう、窒息して死んだ。 この不幸な出来ごとを、東京

文字遣い

新字新仮名

初出

「文明」1946(昭和21)年3月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十六巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年6月20日