おおさかまんげきょう
大阪万華鏡

冒頭文

1 北浜の父の事務所から、私は突然N署に拘引(こういん)された。 私がN署の刑事部屋に這入ると、そこには頭髪を切った無表情な少女のかたわらに、悄然(しょうぜん)と老衰した彼女の父が坐っていた。その周囲を刑事たちが取まいて、中年過ぎた警部によって私たちは取調べられた。 戯(ざ)れ絵のように、儀礼的な刑事部屋で、あぐらをかいた白毛のまじった老警部が私に言った。 「——チ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 吉行エイスケ作品集
  • 文園社
  • 1997(平成9)年7月10日