じゅもくとそのは 08 わかばのころとたび
樹木とその葉 08 若葉の頃と旅

冒頭文

櫻の花がかすかなひかりを含んで散りそめる。風が輝く。その頃から私のこゝろは何となくおちつきを失つてゆく。毎年の癖で、その頃になると必ずの樣に旅に出たくなるのだ。また、大抵の年は何處かへ出かけてゐる。 櫻の花の散りゆくころ、やはらかく萌えわたる若葉の頃、その頃の旅の好みを私は海よりもおほく山に向つて持つ。山と云つても、青やかな山と山との大きな傾斜が落ち合ふ樣な、深い溪間が戀しくなる。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若山牧水全集 第七卷
  • 雄鷄社
  • 1958(昭和33)年11月30日