わびすけつばき
侘助椿

冒頭文

一 私は今夕暮近い一室のなかにひとり坐ってゐる。 灰色の薄くらがりは、黒猫のやうに忍び脚でこつそりと室(へや)の片隅から片隅へと這(は)ひ寄つてゐる。その陰影が壁に添うて揺曳くする床の間の柱に、煤(すす)ばんだ花籠がかかつてゐて、厚ぼつたい黒緑(くろみどり)の葉のなかから、杯形(さかづきがた)の白い小ぶりな花が二つ三つ、微かな溜息(ためいき)をついてゐる。 侘助(わびすけ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 泣菫随筆
  • 冨山房百科文庫、冨山房
  • 1993(平成5)年4月24日