くずれるおにかげ
崩れる鬼影

冒頭文

月光下(げっこうか)の箱根山(はこねやま) それは大変月のいい夜のことでした。 七月の声は聞いても、此所(ここ)は山深い箱根のことです。夜に入ると鎗(やり)の穂先(ほさき)のように冷い風が、どこからともなく流れてきます。 「兄さん。今夜のようだと、夏みたいな気がしないですネ」 「ウン」兄は真黒(まっくろ)い山の上に昇った月から眼を離そうともせず返事をしました。 兄はな

文字遣い

新字新仮名

初出

「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号

底本

  • 海野十三全集 第8巻 火星兵団
  • 三一書房
  • 1989(平成元)年12月31日