まつのやろはち
松のや露八

冒頭文

()水引竹刀みずひきしない 一 「こんどの冬の陣には、誰が、初伝(しょでん)を取るか」「夏の陣には、俺(おれ)が日記方(にっきがた)(目録取り)に昇格(のぼ)ってみせる」 などと門人たちは、その日を目あてに精錬していた。暮の十二月二十五日と、中元の七月十日とが入江(いりえ)道場の年二回の表彰日なので、修業の半期半期を、門人たちは、夏の陣、冬の陣、と呼びわけて免許取りの早さばかり競(きそ)っていた

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

底本

  • 松のや露八
  • 吉川英治歴史時代文庫、講談社
  • 1990(平成2)年7月11日