私が作物に對する用意といふのは理窟はない、只好いものを書きたいといふ事のみです。されば現代の風潮はどうあらうと其麽事(そんなこと)には構はず私は私の好きなものの、胸中に浮んだものを書くばかりです。人間には誰にでも好き嫌ひがあつて自分が嫌ひなものでも文壇の風潮だと云つて無理に書いたものは、何等の興味が無くつて丁度毛脛に緋縮緬が搦んだ樣なものですから、私は何等の流行を追はず好いたものを書かうと思つて居