こうふくへのみち
幸福への道

冒頭文

『上れますか。』 高い、こまかい階段(きざはし)の前に、戀人の聲が、彼女の弱い歡樂の淡絹(ヹエル)をふりおとした。 彼女は、立止まつた、その瞬間、いま賑かな街を俥で飛んで來た、わづか十五分間の、眩惑されるやうな日のなかの、うれしさの心まどひが、彼女の心の底に常にひそんでゐる孤獨と悲哀の恐ろしさに、つゝまれてしまつた。『私の幸福を、私の弱さがさまたげやしないか。』彼女は、非常に弱かつ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」1915(大正4)年1月

底本

  • 青白き夢
  • 新潮社
  • 1918(大正7)年3月15日