しゅちゅうにっき
酒中日記

冒頭文

五月三日(明治三十〇年) 「あの男はどうなったかしら」との噂(うわさ)、よく有ることで、四五人集って以前の話が出ると、消えて去(な)くなった者の身の上に、ツイ話が移るものである。 この大河今蔵(いまぞう)、恐らく今時分やはり同じように噂せられているかも知れない。「時に大河はどうしたろう」升屋(ますや)の老人口をきる。 「最早(もう)死んだかも知れない」と誰かが気の無い返事を為(す

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 牛肉と馬鈴薯・酒中日記
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1970(昭和45)年5月30日