五月三日(明治三十〇年) 「あの男はどうなったかしら」との噂(うわさ)、よく有ることで、四五人集って以前の話が出ると、消えて去(な)くなった者の身の上に、ツイ話が移るものである。 この大河今蔵(いまぞう)、恐らく今時分やはり同じように噂せられているかも知れない。「時に大河はどうしたろう」升屋(ますや)の老人口をきる。 「最早(もう)死んだかも知れない」と誰かが気の無い返事を為(す