かいのあなにかっぱのいること
貝の穴に河童の居る事

冒頭文

雨を含んだ風がさっと吹いて、磯(いそ)の香が満ちている——今日は二時頃から、ずッぷりと、一降り降ったあとだから、この雲の累(かさな)った空合(そらあい)では、季節で蒸暑かりそうな処を、身に沁(し)みるほどに薄寒い。…… 木の葉をこぼれる雫(しずく)も冷い。……糠雨(ぬかあめ)がまだ降っていようも知れぬ。時々ぽつりと来るのは——樹立(こだち)は暗いほどだけれど、その雫ばかりではなさそうで、

文字遣い

新字新仮名

初出

「古東多万 第一年第一號」やぼんな書房、1931(昭和6)年9月

底本

  • 泉鏡花集成8
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1996(平成8)年5月23日