へいぼん
平凡

冒頭文

一 私は今年(ことし)三十九になる。人世(じんせい)五十が通相場(とおりそうば)なら、まだ今日明日(きょうあす)穴へ入ろうとも思わぬが、しかし未来は長いようでも短いものだ。過去って了えば実に呆気(あッけ)ない。まだまだと云ってる中(うち)にいつしか此世の隙(ひま)が明いて、もうおさらばという時節が来る。其時になって幾ら足掻(あが)いたって藻掻(もが)いたって追付(おッつ)かない。覚悟をするな

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 平凡・私は懐疑派だ
  • 講談社 講談社文芸文庫
  • 1997(平成9)年12月10日