そうもくちゅうぎょ
艸木虫魚

冒頭文

柚子 柚の木の梢高く柚子の実のかかっているのを見るときほど、秋のわびしさをしみじみと身に感ずるものはない。豊熟した胸のふくらみを林檎に、軽い憂鬱を柿に、清明を梨に、素朴を栗に授けた秋は、最後に残されたわびしさと苦笑とを柚子に与えている。苦笑はつよい酸味となり、わびしさは高い香気となり、この二つのほかには何物をももっていない柚子の実は、まったく貧しい秋の私生児ながら、一風変った秋の気質は、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 艸木虫魚
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1998(平成10)年9月16日