きゅうし
窮死

冒頭文

九段坂の最寄(もより)にけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人(ひとり)の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。 先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼうぐらいのごく下等な労働者である。よほど都合のいい日でないと白馬(どぶろく)もろくろくは飲めない仲間らしい。けれどもせんの三人は、いくらかよかったと見えて

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1907(明治40)年5月

底本

  • 号外・少年の悲哀 他六篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年4月17日、1960(昭和35)年1月25日第14刷改版