こいをこいするひと |
| 恋を恋する人 |
冒頭文
一 秋の初(はじめ)の空は一片の雲もなく晴(はれ)て、佳(い)い景色(けしき)である。青年(わかもの)二人は日光の直射を松の大木の蔭によけて、山芝の上に寝転んで、一人は遠く相模灘を眺め、一人は読書している。場所は伊豆と相模の国境にある某(なにがし)温泉である。 渓流(たにがわ)の音が遠く聞ゆるけれど、二人の耳には入らない。甲(ひとり)の心は書中(しょちゅう)に奪われ、乙(ひとり)は何事か深く
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1907(明治40)年1月
底本
- 日本の短編小説[明治・大正]
- 潮文庫、潮出版社
- 1973(昭和48)年5月20日