わたしのしょについてのついおく
私の書に就ての追憶

冒頭文

東京の西郊に私の実家が在つた。母屋の東側の庭にある大銀杏の根方を飛石づたひに廻つて行くと私の居室である。四畳半の茶室風の間が二つ連なつて、一つには私の養育母がゐた。彼女はもう五十を越してゐたが、宮仕へをした女だけあつて挙措が折目正しく、また相当なインテリでもあつて、日本古典の書物の外に、漢詩とか、支那の歴史ものを読んでゐた。字も漢字風に固い字を書いた。当時五歳の私に彼女は源氏物語の桐壺の巻を「何れ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆64 書
  • 作品社
  • 1988(昭和63)年2月20日