なきむしこぞう
泣虫小僧

冒頭文

一 閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)が二匹、重なるようにして這いまわっている。 啓吉は、草の繁った小暗いところまで行って、離れたまま対峙(たいじ)している蟋蟀たちの容子(ようす)をじいっと見ていた。小さい雄が触角を伸ばして、太った雌の胴体に触れると、すぐ尻を向けて、りいりい……と優しく羽根を鳴らし始めた。その雄の、羽根を擦り合せている音は、まるで小声で女を呼ぶような、甘くて物悲しいもので

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集20
  • 河出書房新社
  • 1966(昭和41)年2月3日