上 都(みやこ)より一人の年若き教師下りきたりて佐伯(さいき)の子弟に語学教うることほとんど一年、秋の中ごろ来たりて夏の中ごろ去りぬ。夏の初め、彼は城下に住むことを厭(いと)いて、半里隔(へだ)てし、桂(かつら)と呼ぶ港の岸に移りつ、ここより校舎に通いたり。かくて海辺(かいへん)にとどまること一月(ひとつき)、一月の間に言葉かわすほどの人識(し)りしは片手にて数うるにも足らず。その重(おも)