にろうじん
二老人

冒頭文

上 秋は小春のころ、石井という老人が日比谷公園(ひびやこうえん)のベンチに腰をおろして休んでいる。老人とは言うものの、やっと六十歳で足腰も達者、至って壮健のほうである。 日はやや西に傾いて赤とんぼの羽がきらきらと光り、風なきに風あるがごとくふわふわと飛んでいる、老人は目をしばたたいてそれをながめている、見るともなしに見ている。空々寂々(くうくうじゃくじゃく)心中なんらの思うこともな

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1908(明治41)年1月

底本

  • 号外・少年の悲哀 他六篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年4月17日、1960(昭和35)年1月25日 第14刷改版