「モダンさるかにがっせん」
「モダン猿蟹合戦」

冒頭文

二日ばかり前のことです。用事があって下町へ出かけ、日本橋白木屋の前を通りがかった。いつも人出の多いところだが、今日は又一段と雑踏だ。白木屋の飾窓のまわりが大変な混雑なのです。 何かと思って見ると、いくつも並んだ大きいデパートの窓々に飾られているのは、例によって呉服物の見本をきた人形ではない。——人形は人形だが、こしらえものの雪の中に立って防寒具をつけた兵士人形です。人がウンとたかっている

文字遣い

新字新仮名

初出

「働く婦人」1932(昭和7)年1月創刊号

底本

  • 宮本百合子全集 第十四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年7月20日