れいじょうアユ
令嬢アユ

冒頭文

佐野君は、私の友人である。私のほうが佐野君より十一も年上なのであるが、それでも友人である。佐野君は、いま、東京の或る大学の文科に籍を置いているのであるが、あまり出来ないようである。いまに落第するかも知れない。少し勉強したらどうか、と私は言いにくい忠告をした事もあったが、その時、佐野君は腕組みをして頸垂(うなだ)れ、もうこうなれば、小説家になるより他は無い、と低い声で呟(つぶや)いたので、私は苦笑し

文字遣い

新字新仮名

初出

「新女苑」1941(昭和16)年6月

底本

  • 太宰治全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年12月1日